UBS Perspectives 日本版 2016年 vol.21

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マイナス金利政策

日本の金融政策史上初の「マイナス金利」は、日本経済にどんな影響をもたらすのか?

今年1月29日、日本銀行は日本の金融政策史上で初めてのマイナス金利政策の導入を発表。新たな金融緩和策として2月16日から実際に導入しました。これは、金融機関が日本銀行に持つ当座預金のうち、任意で預けている額について、マイナスの金利を付ける政策。黒田総裁は「金利全般を押し下げ、消費や投資を喚起する」とその狙いを説明するが、「金融機関や預金者の不安を招く」など副作用に対する懸念も囁かれています。劇薬とも称される、マイナス金利政策の真意は何なのか?CIOの居林通が解説します。

中央銀行が供給した資金を実体経済に回す

マイナス金利の意図を読み解くには、そもそもアベノミクスが何を目指している政策なのか?という視点が欠かせないと居林は語ります。「アベノミクスが登場した背景には、失われた20年と呼ばれる日本のデフレがあります。これをインフレにしよう、というのがアベノミクスの命題です。金融緩和によって円安が誘導され、その結果、企業収益はリーマンショック前の水準に回復しました。しかし、一方で家計が潤ったという声は聞こえません。GDPもマイナス成長となっています。なぜでしょうか?賃金の上昇や設備投資の拡大が起きなかったからです。円安が実体経済に何のインパクトも与えなかったのです」。居林はその理由を明確に指摘します。「いわゆる『第一弾黒田緩和』が行われた2013年4月から日銀のマネタリーベースは大幅に増加しましたが、並行して日銀当座預金の準備預金残高も約二百兆円増えています(図1)。準備預金残高とは、すなわち国内銀行が日銀に預金している金額ですが、日銀が貨幣を刷っても、それが市中に出回らず、国内銀行の預金という形で日銀に積み上がっているわけです。量的緩和をしても、資金が実体経済に回らなければ何の意味もありません。日銀は長期国債の保有残高を年間80兆円増やす買い入れを継続する方針を示していますが、今後、民間銀行が日銀に国債を売却して受け取る代金や、保有している国債の償還代金など、日銀口座の新規預金にマイナスの金利を付けることにしました。日銀口座から自行内に資金を移して積み立てても、マイナス金利の対象です。行き場を塞ぎ、『資金を実体経済に回せ』というメッセージを明確にしたのです」

マイナス金利は資金を還流させるポンプ役

マイナス金利政策を分かりやすく表現すると、『資金のポンプ役』であると居林は言います。「ポンプでお金の流れを変えようとしているのです。日本には千三百兆円と言われる個人資産がありますが、これはおいそれと動きません。ターゲットは企業貯蓄です。この先、マイナス金利の導入で銀行は企業に対し、利息や手数料などを要求するようになるでしょう。企業は、これまでの金利を受け取る立場から一変し、預金にコストがかかるようになるわけです。『預金すればマイナス』になれば、企業の心理は『使う方が良い』に変わります。使い途としては、自社株買いやM&A、設備投資、不動産投資、賃上げなどが挙げられますが、事実、今年2月末現在、企業の自社株買いの金額は昨年同時期と比較して3倍になっています。企業の投資が活発になるとインフレマインドが消費者に波及し、土地や家、クルマなどにお金を使うようになります。こうして経済が活性化されるのです。まずは銀行。次に銀行の顧客である企業。そして、家計。言わば『三段ロケット』方式で経済に点火しようというのが、マイナス金利政策の真意です。現在は、日銀がまず一段目のロケットに火を点けた状態です。マイナス金利政策は劇薬と言われます。しかしロケットに点火し、日本経済が離陸する可能性はあるのです。失敗すればアベノミクスが終わる、まさに正念場と言えるでしょう」

日本だけの政策ではないマイナス金利

奇策のように聞こえるマイナス金利政策。しかし、スイス、デンマーク、スウェーデンなど欧州では日本に先駆けて導入されていると居林は言います。「UBSが本拠を置くスイスはマイナス金利導入により、スイスフラン高を止め、不動産高を引き起こしました。一点留意しておくべきことは、マイナス金利政策は経済規模が小さいほど奏功しやすいということ。日本はスイスよりも経済規模が大きく、連鎖反応や全体への波及に時間がかかります。日銀のマイナス金利政策の成否を判断するのはまだ先になるでしょう。また一方で、世界の中央銀行を見ると、ECB(欧州中央銀行)と日銀がマイナス金利政策を導入し、FRB(米連邦準備制度理事会)は4回予定していた利上げを2回に減らすと言っています。中国経済が減速した今、世界経済の牽引役は存在しません。次はインドだと言われていますが、主役になるには当面時間が必要でしょう。世界経済全体がスローダウンした局面で、ドラギ総裁、黒田総裁は金利を下げる、イエレン議長は利上げのペースを緩めるという選択をしているのです」。では、日本の投資家はマイナス金利の時代とどう向き合うべきでしょうか。居林は大きなダイナミズムのチェンジが必要であると語ります。「超低金利時代は当面続くと思った方が良いでしょう。それに対応した投資戦略を取るべきです。たとえば、海外のハイイールド債。海外通貨立て取引をしても、かつてないほどヘッジコストが安く済みます。また、日本株式もTOPIX全体で見ると、2%の利回りがあります。Jリートや配当利回りを中心とした戦略を取るのも一つの手段です」

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